タリスマン、小菅村の森へ還る。
タリスマンエクスペリエンス@小菅。今回は素晴らしいゲストの皆さんと一緒に念願のNipponia小菅へ滞在。こうして、一つの循環が終わり、次の循環が始まる。
7月の小菅村。松姫トンネルを抜けると、ひんやりと涼しい風。タリスマンエクスペリエンス@小菅。5月からFoodcreationとリトル・トリーが共同でセットアップしてきたツアー。小菅の自然を堪能し、タリスマンを山に返すリチュアルを行うことがメイン。そして、念願のNipponia小菅へ宿泊。ゲストは、六本木2121「Futures In-Sight展」ディレクターで、雑誌WIRED編集長の松島倫明さん、SOMA DESIGNの廣川玉枝さん、オレンジアンドパートナーズの佐藤剛史さんと、素晴らしい面々。妻の志乃と息子の的くんも一緒で、とても充実した1日だった。
こうして、一つの循環が終わり、次の循環が始まる。
2021年12月、小菅の森で集めた枝葉はタリスマンという作品となり、六本木2121「Futures In-Sight展」で5ヶ月間展示された後、小菅村の村長室へ還ってきた。
タリスマンの製作者はアーティスト・諏訪綾子さん。
製作に協力(北都留森林組合の施業現場から枝葉の調達・輸送、小菅村長や役場への協力依頼等)をさせて頂いたことから、自分も家族と一緒に貴重な体験を共有できた。
東京への旅が終わり、村長室へ還ってきたタリスマンや、綾子さんが知人に贈ったタリスマンを小菅の森へ還し、新しいタリスマンを贈る。その贈与の循環は、森がある現地で行われ、そのために、人々は村へ足を運び、束の間の滞在を満喫する。同時に、野性や自然との繋がり、結びつきを再発見する機会になれば嬉しい。
小菅村に到着後、まず、松姫峠へ行き、広葉樹林を軽くハイキング。その後、雄滝へ移動し、そのエネルギーに満ち溢れる岩峰と滝を眺めながら、源流の水で珈琲をドリップする。
昼食は、原始村キャンプ場にある食事処「ムッカ」でジビエバーグを頂く。その後、タリスマンを持参してくれた村長と合流し、キャンプ場の河原でセットした焚き火台でリチュアルを開始。
タリスマンは何を意味しているのか。自分なりに考えてみる。
森が生み出す水を通じて、村と都市は繋がっている。その水はやがて雲になり、雨となって森へ還る。
実は、一方通行ではない水の循環。
水を生み出す森と消費地である都市の繋がりと相互関係は、日常的に体感することは難しく、目で見ることができない。家の蛇口から森で育まれる最初の一滴を想像するのは至難の技だ。その手助けを行い、循環を可視化するのが、タリスマンだ。
綾子さんに尋ねると、タリスマンは「お守り、契約、支払い」という語源を持つという。
森という自然を象徴するお守りであり、地方と都市、森と人、生産と消費、過去と未来を繋ぎ、関係性を再創造する役割を持っている。
地方の森、特に人工林(スギ・ヒノキ)は、整備が行き届いていない場所が多い。まずは間伐が必要な状況だ。つまり、劣勢木を伐採し、林内を明るくする必要がある。
そのため、タリスマンは、間伐時に発生し、林内に捨てられてしまう枝葉が原材料となる。間伐した木の幹部は、なるべくマテリアルやエネルギーとして利用し、さらに、枝葉も利用する。枝葉はアロマオイルや蒸留水の原料にもなるが、アート作品としての利用は画期的だ。今まで、前例を自分は知らない。
リチュアルの終了後、Nipponiaへチェックインし、小菅の湯へe-bikeで向かう。小菅の湯のお風呂を「薪の火」で温めている、薪ボイラーを案内させて頂き、入浴の時間。
自身がバイオマスエネルギー活用に取り組んできた経緯から、タリスマンはマテリアルとしての枝葉の新しい活用方法、付加価値化を提示していて、さらにリチュアルによってエネルギーへと返還され、熱利用は行われないが、参加者へ「火」を「見る」機会を与えてくれる。
「火」を扱うことがホモサピエンスの進化を裏付けたとすれば、日常的に生々しい火を見る機会が少ない現代では、その体験自体が内なる野性の感覚を呼び覚ますことになるかもしれない。シンプルだけど、底知れず重要な、味わい深い体験。
味わい深いと言えば、綾子さんの主催するフードクリエイションのイベントでは、食や味覚から発する、記憶や感情の関係を再発見する趣向があった。タリスマンを森へ還すリチュアルでも、「味わい」が存在する。
土を手で触れる、枝葉の香りを嗅ぐ、山水を口に浸す、地元の養蜂家が作る蜂蜜(蜂が集めた森のエッセンスとも言える)をなめるなどの行為が、リチュアルで展開される。五感を通じて象徴的に森を味わう時間と空間がそこにあり、その体験をどのように増幅するかは個々人に委ねられる。
自分は五感の体験が重なることでどのような気持ちになるのかを楽しんでいる。
Nipponia小菅の宿泊は最高の体験だった。
古民家の重厚さと洗練されたデザインや設備が調和した空間に滞在するのは清々しい。マネージャーの谷口さんの対応も素晴らしかったし、小菅村の食材を駆使して提供される夕食・朝食では、その価値と貴重さを味覚で感じさせてもらった。
Nipponiaを経営する株式会社さとゆめ社長の嶋田俊平くんと舩木村長も会食に参加して頂き、業界を越えて越境する話題の数々で盛り上がる。こうした場から、化学反応が生まれる予感を感じつつ、夜は更けていく。
枝葉、水、蜂蜜など、全ての素材の由来とその生産に関わる人が思い浮かぶと、その価値は自然と増幅してくる感覚がある。自然が培い、人が受け取り、加工が施され、今、ここにやってきた。そんな文脈がこの瞬間を特別なものにしてくれる。実際、それらの素材が生み出される背景には、ミクロで見れば奇跡的なバランスと調和が存在する。そして、実は、自分達の周囲にある世界や自分自身も同じなのかなと思えてくる。そう、自分も自然の一部なのだと。
そして、山梨県立美術館で今秋、綾子さんの企画展が開催される。今、その企画展に向けて、仲間と一緒に製作を行なっている。